AnotherVision Countdown Calendar 2020

AnotherVisionメンバーによる"Countdown Calendar"を2020年もお届けします

AVCC2020のメインビジュアルから組織を考える話

(注意)とても長いです。脚注込みで13000字超えてます。忙しい人は「この記事を書くに至った経緯」「終わりに」の二項目を読めば大体話の筋が分かります。残りは自分の思考整理が9割、テスト勉強が1割です。脚注は謎解きの作品名か、マーダーミステリーの作品名か、ちょっと関連するアドベントカレンダーの記事か、ちょっとしたコメントです。暇な人はぜひリンク先の記事も含めて全部制覇してみてください。

 

 

自己紹介

どうもこんにちは。初めましての方は初めまして。7期のえっふぃです。

ここ最近は謎解き成分よりもマーダーミステリー成分の方を多く摂取しておりまして、新宿で円卓の騎士の一員となったり*1、池袋でちょっとアングラな場所に行ってみたり*2、池袋で昼ドラに巻き込まれたり*3、渋谷で裁判に参加したり*4していました。謎解き方面だと下北沢あたりで冒険者になったり*5、下北沢あたりでConditionをLostしてたり*6、下北沢あたりでユニバーサルなヒラメキを楽しんだり*7、下北沢あたりのキッチンでドタバタしてたり*8、下北沢あたりで怪盗の行方を追っていたり*9、下北沢あたりでボールをゴールに入れたり*10していましたね。全部わかった人はネタバレトークしましょう。今のところ一番好きな謎解きコンテンツは京大勤勉論部さんの『スイート・ノベンバー・ブルース』。一番好きなマダミは……ちょっと話題になりすぎてうんざりしてる人がいるので、脚注に飛ばします。*11

AnotherVisionの一員として謎解きを作る側にも一部参加していますが、現時点で関与しているプロジェクトは情報が公開されていないものが大半なので、詳細は伏せておきます。これまで自分が関わった中で一番大きかったプロジェクトと言えば昨年の駒場祭周遊『裏商店街 思い出通り』ですね。制作指揮を務めさせていただきましたが、いろいろあって制作進行っぽいスタンスを取っていた記憶がなぜかあります。駒場祭当日は雨に降られてそもそもお客さんがあまり来てくれなくて、心がバッキバキに折られた覚えがあります。無念。周遊型って天候に弱いですからね。評価1/5でもいいから評価が欲しいと非常に悔しい思いをした覚えがあります。*12

他に関与したものといえば、運営周りの仕事ですね。2020年駒場祭の告知画像とお品書きは僕の作品です。あとは今シーズンのAVCCの取りまとめも僕です。ちょっとしたビジュアルも作っちゃいました。

f:id:Another_Vision:20201207112511p:plain

……なんだこのカオスは。

去年の記事のタイトルをベースにいろいろこねくり回した結果こんなものができました。クリスマスまでのアドベントカレンダーのはずなのに、明らかに記事の数が25……どころか31を超えていますね。そしてテーマも雑多。アドベントカレンダーの既存の概念を無視したビジュアルになっています。

 

というわけで、マネージャーっぽい立ち回りのディレクターとちょっとしたデザインに定評のある人間です。以後お見知り置きを。

 

この記事を書くに至った経緯

……さて。自己紹介も済んだところで。

昨年のアドベントカレンダーではなんとか経済学と謎解きを絡めて何か議論できないかな、と考えた結果、オムニバス形式で様々なテーマをつまみ食いする形の記事が完成しました。今年もできれば類似した形で何か記事が書けないかと思い筆を取った次第です。

というのも、自分は謎解きの世界に浸っていながらも一応本業は学生でして、来年の4月からは晴れて経済学部の一員になる予定です。最近はミクロ経済学マクロ経済学から会計・ファイナンスまで経済学周辺のいろんな分野の基礎を学んでいて、特にマクロ経済学がマイブームになっています。経済成長理論とか、IS-LMモデルとか……あくまで学部レベルの超がつくほど基礎的なレベルですが、その範囲だけでも示唆に富んだモデルを扱えるのは結構面白いです。ただ、マクロ経済学を謎解きに絡めるのは無理があります。マクロ経済学が扱うテーマは基本的に「国全体のヒト・モノ・カネの動き」が中心なので、謎解きという一つの狭い業界と絡めて記事にするのは至難の技です。

以上を踏まえて、今回は経済学の隣の学問、経営学と絡めていろいろ考えてみようかなと思い、筆を取った次第です。AnotherVisionも利益最優先の企業ではないものの、団体ではありますし、お金になる謎解きコンテンツを売っています。また、各種制作でもチームを組んで取り組んでいます。経営学の考えを借りながら分析してみると、少しぐらい何か見えてくるものがあるかもしれません。

ただ、経営学をガッチガチに語れるほど何か知ってるわけでも、あるいは強い意欲があるわけでもありません。何より僕は代表でも副代表でもなんでもない、ただのメンバー。組織をよりよくしたい!と思ったところで今すぐにできることは限られています。自分の専門(としたい領域)からズレた話を延々とするのも辛いですし、専門とズレた話をずっと読ませるのも怖いですし。もっと肩の力を抜きつつ、組織についてコーヒーかウィスキーを片手に考えられる話題の方がアドベントカレンダーっぽいし、弊団体っぽいですよね。*13

というわけでいい塩梅の切り口を探したところ、ちょうどいいものがありました。

メインビジュアルです。

 

f:id:Another_Vision:20201207112511p:plain

……雑多。何度見てもすごいなこれ。

例年アドベントカレンダーは「コンプラに抵触しない限りは何を書いてもいいよ」というレギュレーションにしているんですが、にしてもやりたい放題がすぎているような。改めてみるとすごい有様ですね。このメインビジュアルは昨年の記事のタイトルをまとめたものなので今年のタイトルとは若干ずれますが、今年もそこそこ、かなり、とても、大変バラエティ豊かなアドベントカレンダーになりそうです。お楽しみに。*14

メインビジュアルや過去のアドベントカレンダー記事からも分かる通り、AnotherVisionは多様性に富んでいる組織です。しかし、ディレクターやマネージャーに限らず何かしらのチームのトップを務めたことのある人なら分かるかもしれませんが、この多種多様な才能と能力を最大限活用しつつ、制作陣の取りまとめをしていくのは大変です。ある程度均一なメンバーによって構成された組織でさえ統率するのが大変なのに、況やこのカオスをや。

というわけで、今回の問いは「こんなメインビジュアルに代表される組織ってどうやって取りまとめたらいいんですか?」といったところでしょうか。理想としてはAnotherVision全体について何か話せれば、と思ったのですが、自身の経験を踏まえて今回は一つの制作チーム単位での話にしておきます。学問領域としてはモチベーション論、管理者行動論、組織風土あたりが該当するはずです。ある案件に携わる制作陣を組織とみなし、経営学の視点を借りて考えてみる、といった具合の記事を書いていきます。

お断り

なお、事前にお断りしておきますが、この記事はあくまで個人の見解を示したものです。団体の意見を代表するものではありません。「こんな制作陣はよくない」「こういう組織であるべきだ」「こうしたらいいんじゃないか」と言ったところで、それはただの机上の空論にすぎません。どんなに影響があったとしても次の制作チームが少し影響を受けて経営学をかじってみたり、あるいは次の代表が僕の文章に感化されていろいろ考え始めたりする程度です。実際そこまでの影響力は期待してません。

また私は経営学については専門家ではありません。まだまだ勉強中ですし、そもそも現時点で専門にしようと思っていません。拙い知識や思い込みをベースに文章を構成している部分が多々存在しますので、細かい知識の精度に関しては目を瞑っていただければ幸いです。

そしてこの文章、かなり適当です。ファクトチェックは不十分だし、そもそも構想メモが存在しません。文章全体の構想を練ってから書くのではなく、ひたすら思いつくままに筆を走らせています。なんなら書きながら自分の考えを整理しています。なので最初に提示した問いに答えるか分かりませんし、答えに行き着く前に筆を止めるかもしれません。悪しからず。

では、予防線もたっぷり張ったことですし、前置きはここまでとして、本編へとまいりましょう。

前提:そもそも経営学とは

経済学を齧ってる人間からすると、経営学はよく「経済・経営」として一括りにされがちなイメージがあります。扱っているテーマも似ている部分があったり、経営学が経済学の考え方を借用していたり、経済学が経営学をある種前提にしていたりと、関連性は多少あります。しかし、学部レベルで少しずつつまみ食いした範囲だけでも経営学と経済学はかなり差があるように見えます。少なくとも別の名前を与えられる程度には差があるように感じますね。

で、経営学は何なのかと言いますと……断言するのは難しいです。はっきり定義を断言できるほど経営学を学んでいません。それ以上に、どんな学問体系であってもその定義を示すことは難しいです。ただ、定義を一切しないまま話を続けるわけにもいかないので、いくつか定義を紹介してみたいと思います。

 

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典

経営を研究対象とし,その実践的な原理を究明する社会科学の一分野。現実に行われている経営と管理に科学のメスを入れ,そのメカニズムを解明することによって問題点や改善策を導き出し,組織目的の合理的達成を追求する経営者や管理者に対して行動指針を与えようとする実践科学である。

デジタル大辞泉

企業経営にかかわる経済的・人間的・技術的側面を研究対象とする学問。

ウィキペディア

経営学(けいえいがく、英: business administration)とは、広義には組織の運営について研究する学問である[1]。対象は企業や組織とする場合が多いが、その二つを限定せず、あらゆる組織体(自治体・NPOなど)が経営学の対象となりうる。

 ……ますます分からん。

分からないなりにいくつか共通要素を抽出してみると、実践的な社会科学である点、そして広義には組織、狭義には企業の行動を考察対象としている点は見えてきます。「組織で目標を達成するにはどうすればいいか?」というのが根源的な問いとして存在しているようです。

また、経営学の教科書・参考書や講義のシラバスを眺めてみると、経済学がミクロ・マクロ・計量経済学などの括り方で大きく分けられているように、経営学にも大きなテーマがいくつか存在するようです。具体的には、組織内部のあり方を考える「経営管理」、そして組織としての対外的な動き方を考える「経営戦略」がありますね。他にも「技術経営」とか「マーケティング」とか「会計」とか、様々なテーマが異なるレイヤーで存在しているような印象を受けます。今回の記事は主に経営管理の話です。経営戦略はそもそも学んでませんし、専門外ですし、何より立てた問いが経営管理寄りの問いになっているので。

それぞれの分野の細かい定義まで踏み込むとただでさえ長い記事がさらに長くなりすぎそうなので、一旦議論を止めて本題に戻ろうと思います。

出発点:AnotherVisionと、ディレクターと、マネージャーと、制作陣

AnotherVisionの文脈で組織について考えるために、まず「東京大学謎解き制作集団」という名称に注目してみます。最近はコロナ禍で対面型のイベントを行うのが困難になっていますし、ボードゲームやら*15漫画やら*16とよくわからないコンテンツをいろいろ作っている弊団体ではありますが、ざっくり「謎解き」を作っていることは共通項と言えそうです。謎解きの定義については他の人が論じてくれると信じて、ここでは大雑把に弊団体の制作物を「お客さんに楽しい体験をもたらすもの」としてみましょう。かなり大胆に様々なものを捨象した定義ですが、謎解きの正体や「楽しい」をもたらす要因を詳細に検討していくと明らかに長くなりすぎるので、この記事ではここで議論を止めます。*17 *18

*19

では「お客さんに楽しい体験をもたらすもの」と弊団体の制作物を定義した上で、制作の流れを考えてみます。コンテンツを形にする上で必要な作業を一言で表すとすれば、「面白いアイデアを産出し、そのアイデアを形にして実行する」こととして表せるのではないでしょうか。これまた様々な要素を大胆に捨象した表現なので、実際には他にも構成要素は存在すると思いますが、以降の議論では制作の中核をなす要素として「面白いアイデアを産出し、そのアイデアを形にして実行する」ことに着目していきます。 

「面白いアイデアを産出し、そのアイデアを企画として実行する」。

弊団体では各制作で大抵制作指揮(ディレクター)と制作進行(マネージャー)が立てられますが、いわば「面白いアイデアを産出する」の部分が制作指揮を中心に、「企画として実行する」の部分が制作進行を中心に進められています。また、他の制作メンバーも、アイデア出しに参加したり、アイデアの検討・吟味をしたり、謎・テキスト・デザイン・パズルの実装をしたりと、アイデア産出の部分と企画としての実行の部分の少なくともどちらかに加担しています。*20

個々の制作において、ディレクターやマネージャーの役割についてはそれなりにアイデアが弊団体の中でまとまっています。ディレクターが”前から引っ張る人”ならマネージャーは”後ろから押す人”、ディレクターが”作品の面白さに責任を持つ人”ならマネージャーは”作品の完成に責任を持つ人”、などなど。そしてこの二人が制作陣全体のトップとして、組織をリードしていくことが大半です。制作陣の各メンバーをうまくまとめつつ、個々の才能を活かして行くことを考える必要があるんですよね。

ただ、制作上の役割としてディレクターやマネージャーが語られることはあっても、広い意味でのリーダーシップや組織について考える機会は意外と少ないのかもしれません。考える機会はあってもはっきり言語化されずに、個々の才能とされてきたきらいがあります。メンバーを取りまとめる方法が体系的にまとめられているなら、使わない手はないでしょう。

組織とは:組織としての制作陣とコミュニケーション

メンバーの取りまとめを考える上で、大前提として「組織とは何か」について考えてみます。経営学では「公式組織」という概念が以下のような定義されています。

公式組織…二人以上の参加者の意識的に調整された活動や諸力のシステム

また、組織に関連した概念として、「協働システム」という概念も定義されています。

協働システム…少なくとも一つの明確な目的のために、二人以上の人々が協働することによって特殊な体系的関係にある物的・生物的・個人的・社会的構成要素の複合体

さらに、組織には成立条件と存続条件が考えられており、成立条件としては

  1. 共通目的
  2. 貢献意欲
  3. コミュニケーション

の3つが、存続条件としては

  1. 組織の有効性
  2. 組織の能率

が挙げられます。少し端折りつつまとめると、共通の目的を果たすべく、二人以上の構成員がそれぞれコミュニケーションを取りながら自身の能力を組織のために使う時に組織が発生し、その目的がうまく達成され続ける限り組織が存続する、ということになります。

これをAnotherVisionの制作における文脈に照らして考えてみると、共通の目的としては「なんらかの制作物を完成させたい」「面白いものを作りたい」というものがはっきりしており、貢献意欲やコミュニケーションに関しても制作陣として参加する時点である程度発生します。という意味で、AnotherVisionの各種制作における制作陣は「組織」として該当することは明らかです。

逆に制作をいい状態で維持するためには、共通の目的をはっきりさせた上で、各人が組織への貢献に対し何を求めるかを考え、その条件を満たす必要があります。それぞれのメンバーのモチベーションが満たされなくなってくると、いくら面白いものが作れていたとしても組織に所属することに限界が出てきます。それゆえ、制作陣という組織のトップに立つディレクター、マネージャーは各メンバーのモチベーションに注意を向け、組織が存続する条件を考慮する必要が出てきます。

と言っても、どんな組織でも「メンバーのコミット率を高めるにはどうしたらいいかな?」という課題はつきものですし、何も弊団体に限った話ではありません。むしろ弊団体のメンバーは「面白いものを作りたい」という気持ちをなんらかの形で持っている人が多いので、各制作における個々のモチベーションに関してはかなり恵まれている方だと感じます。ただ、メインビジュアルからも見て取れるように、弊団体には多種多様すぎるメンバーが揃っているので、それぞれのメンバーがどう貢献したいか、どう貢献できるか、どのようなモチベーションで参加しているのかを考えるのは大変です。個人の”やりたい”が強いとケンカになったり、弱いとうまく巻き込むのが難しかったり……。

面白さを追求するあまり議論がヒートアップするのは往々にしてAnotherVisionの制作では見られる光景です。それだけ真剣に面白さと向き合える人がいることの象徴でもありますし、必要な対立ではあります。しかし、組織のなかで対立が起きるとどうしてもコミュニケーションで摩擦が発生してしまうので、ちゃんと綺麗にケンカして仲直りまで持っていく必要があります。組織の能率を保つためにも、コミュニケーションを一定の水準で円滑にできるようにすることが重要ですね。*21

そしてその役回りを担いがちなのが、制作トップのディレクター、マネージャーの二人。彼(女)らの立ち回りがチーム全体のカギを握ることが多いです。

リーダーシップ:ディレクター、マネージャーの立ち回り

先に述べた組織の中の対立解消で一役買っているのがディレクターとマネージャーです。過度な対立が発生しないような雰囲気作りをしたり、コミュニケーションの齟齬を防ぐべくうまく仕事を割り振ったりすることで、不要なケンカを減らし組織の能率を高めることができます。これらの職能は重要ですが、対立の解消やコミュニケーションの促進はあくまでリーダーの一職能にすぎません。

では実際にリーダーの職能やあるべき姿とは何なのか、すなわちリーダーシップについて考えてみましょう。この記事では行動アプローチを用います。言い換えれば、リーダーの人格や性格といった、その人固有の特質としてリーダーシップを考えるのではなく、与えられた組織の状況に対しリーダーがどのように行動し、その結果部下がどのように反応するか、といった行動面について注目しリーダーのあり方を考えます。

リーダーの職能については各種議論が存在しますが、ここではリーダーシップのコンティンジェンシー理論を紹介します。リーダーシップのコンティンジェンシー理論の結論は、「適切なリーダーシップは、その時々の状況で変わってくる」という主張にまとめられます。ここで、時々の状況とは、リーダーとメンバー間の人間関係、タスクの構造化の程度、そしてリーダーの職位に基づくパワー、の三要素によって定められるものです。

要は「時と場合に応じてリーダーのやるべきことは変わる」という話です。説明になっているような、なっていないような。

一方、他の研究では普遍的なリーダー行動を定義しています。主に構造づくりと配慮の二つが挙げられます。

構造づくり…部下が目標の達成に向けて効率的に職務を遂行するのに必要な構造な枠組みを部下にもたらすリーダー行動

配慮…集団間での相互信頼・部下のアイデア・考え方の尊重・部下の気持ち・感情への心配りによって特徴付けられるような人間関係を生み出し尊重するリーダー行動

この二要素について、特に弊団体ではディレクターとマネージャーの二人でうまく役割分担をしながらリーダーシップを発揮しています。制作メンバーのアイデアをうまく汲んだり、考えを尊重したりするのは主にディレクターが引き受ける傾向にあります。マネージャーは効率的に職務を遂行する上で、タスクを割り振ったり、スケジュールを設定したりなど、構造づくりに該当するような仕事をする傾向にありますね。もちろんディレクターが進捗の確認をしたり、マネージャーが雰囲気作りで一仕事したりするなど、部分的に役割が入れ替わることもあります。しかし、役割上責任を持つ部分を考えると、配慮はディレクター、構造づくりはマネージャーが担う傾向がありそうです。

また、社会人類学的な手法を用いて仕事の場における管理者の行動を分析した研究では、管理者の仕事の大部分がコミュニケーション、特に口頭コミュニケーションによって占められていることが判明しています。この研究は工場やオフィスなど、いわゆるサラリーマン的な働き方をする職場における管理者の行動を分析したものです。そのため、この傾向が全てのリーダーに適用される訳ではありません。しかし、構成員と話す中で組織の内外に存在する様々な問題を解決していると考えれば、コミュニケーションが果たす役割が管理者の仕事の大部分を占めるのは理解できます。

そして非常に重要なリーダーの役割として意思決定があります。小規模な意思決定は組織の各レイヤーにおいて行われますが、最終的な意思決定を行うのはディレクターかマネージャーであることが大半です。そのために必要な情報を集めたり、意見を聞いたりして、与えられた目的に対して最大限の成果をいかにして得るのかを考えます。目標を提示し組織を引っ張るからには、どのような決断を下せば組織にとって最適になるかを理解しているのがトップのはずです。もちろん不確実性やリスクは存在しますし、100%正しい判断が必ず下せるわけではありません。しかし制作陣の中でもっとも100%に近い状態にあるのがリーダーであるからこそ、最後の判断はリーダーが行います。

リーダーのあるべき姿として、コミュニケーション、構造づくり、配慮、意思決定、と言ったキーワードが見えてきましたが、やはりコンティンジェンシー理論でリーダーのあるべき姿は「時と場合による」とされているように、固定されたリーダー像が掲げにくいです。10人ディレクターがいれば、10通りのディレクターの動き方が存在します。しかし、「面白いものを作る」という目標を掲げ、それを実現するために工夫する、といった立ち回りは概ね共通してそうです。創造性が活性化されたりアイデアが自然と降ってきたりするような環境づくりができると、個々のメンバーの才能が最大化されそうですね。

組織風土:クリエイティビティを育む組織とは

AnotherVisionは「面白いもの」を作りたがる集団です。また、作っているものの性質からしてアイデア勝負であり、新規性のある面白いアイデアが出るかどうかが勝負です。謎解き公演に使えるいいアイデアが降ってくることが制作におけるキーポイントになりますし、組織を操縦する側としては「いかに良質なアイデアが降ってくるような組織を作っていくか」という点を考える必要が出てきます。必然的にクリエイティビティが求められます。

クリエイティビティの源泉は突き詰めれば個人にありますが、一方でクリエイティビティを発揮しやすい風土というものも考えられます。実際クリエイティビティを育む組織風土を測定する尺度としてKEYS尺度というものがあり、以下のパラメータによって説明されます。

  • クリエイティビティの奨励……組織や上司、仕事グループから創造的な仕事を奨励されるような環境
  • 自律性、自由
  • クリエイティビティを発揮するための資源の量
  • クリエイティビティを発揮できる挑戦的な仕事の機会
  • 仕事負荷のプレッシャーの度合い
  • クリエイティビティに対する組織的な障害の有無

特に上4つのパラメータはクリエイティビティを促進する方向に、下2つのパラメータは阻害する方向に働きます。創造的な仕事を奨励する環境がある中で、十分な裁量と資源があり、クリエイティビティを発揮する機会があると人はクリエイティビティを発揮しやすくなります。逆にプレッシャーの高い仕事を任されたり、保守主義的傾向や厳格なルールが組織の中にあったりするとクリエイティビティを発揮しにくくなります。

また、謎解きコンテンツはよく新規性を求められます。新しいアイデアがあるからこそ謎解き公演や周遊、持ち帰りやLINE謎として面白いものが出せている節があります。AnotherVisionは新規性や面白さを尊重する文化があり、メンバーの多様性がそこに一役買っています。文理比率のみならず、個々のメンバーのバックグラウンドや才能、能力もかなり多様性に富んでおり、議論を交わす中で異なるアイデアとの化学反応が起きることも多いです。もっとも、クリエイティビティの奨励の結果として多様性が実現した、とするような主張もあるようなので、どちらが原因でどちらが結果かまでは言い切れませんが……いずれにしても新しくて面白いことが好きで、新しくて面白いことを尊重する文化ができているのは、制作の活性化に貢献していると思います。*22

アドベントカレンダーのメインビジュアルの雑多さにも、弊団体の文化が見え隠れしているような、そうでもないような。

f:id:Another_Vision:20201207112511p:plain

……この混沌も、ポジティブに解釈できるならそっちの方が精神衛生上いいですよね。

終わりに

……書ききれない。

これだけ字数を割いても議論し尽くしてない気がします。それどころか、考えるべき問いが増えていきました。やはり経営学、一学問として存在するだけあって扱うテーマが広くて深いですね。実際には社会学・心理学・経済学の考え方を応用しつつ「使えるものはなんでも使う」の精神で企業や組織を考察する側面があるので、学問体系として呼べるかどうかは議論の余地があるかもしれませんが、学部や学科が一つ独立して存在しうる程度の領域があることは確かです。

書ききれないなりに、一応形だけでも最初に提示した問いに対する自分なりの答えを出してみたいと思います。

 

f:id:Another_Vision:20201207112511p:plain

こんなメインビジュアルに代表される組織ってどうやって取りまとめたらいいんですか?

 

……無理です。

 

怒られそうなので真面目に答えます。

 

メンバーとコミュニケーションをよく取り、メンバーの意思を尊重しつつ、共通の目標を設定しながら、今誰が何をどうすべきかを判断し、その考えを共有する。

 

ですかね?合ってるといいな。こんな簡単な答えが全てを説明しているとは思えないし、仮にこれが答えだったとしても「言うは易し行うは難し」ではあるんですけど。

そして、この答えを実行する前段階として

「こんなメインビジュアルに代表される組織ってどうやって取りまとめたらいいんですか?」という問いについて考えてみる。

というステップがあるのかもしれません。

 

この記事を読んで、ちょっとでも「経営学」っていう学問の存在と、僕の頭の片隅が理解してもらえたら嬉しいです。AnotherVisionに所属しているとどうしても謎やコンテンツについて集中しがちになるんですけど、一歩引いて「組織」「チーム」を観察するのも意外と面白いんですよね。

 

あと、リーダーシップって、意外と勉強できます。ちょっとしたタイミングでリーダーになってみるのも、悪くないですよ。

 

以上、AnotherVision7期のえっふぃがお送りいたしました。明日は8期のpotterがきっともうちょっと短くて読みやすい文章を書いてくれるでしょう。お楽しみに。この記事の本文を全部読んだ人も、途中ちょっと端折った人も、脚注込みで全制覇した人も、長々とお付き合いいただきありがとうございました。

 

さて、残りのアドベントカレンダーの取りまとめを……はあ。*23

 

参照した資料

網羅的ではありませんが、以下の資料を参考に記事を作成しました。

Chamorro-Premuzic, Tomas. "Does Diversity Actually Increase Creativity?" Harvard Business Review. Published June 28, 2017. Obtained December 7, 2020.

Meyer, Erin. (2014) The Culture Map: Decoding How People Think, Lead, and Get Things Done Across Cultures. New York: PublicAffairs.

コトバンク経営学」. 2020年12月6日アクセス.

髙橋伸夫(2016)『大学4年間の経営学が10時間でざっと学べる』角川書店.

講義「経営」レジュメ

 

*1:聖剣王殺

*2:SUN DOG

*3:純白の悪意

*4:裁くもの、裁かれるもの

*5:下北沢Fantasy Quest

*6:LOST A CONDITION

*7:TableT

*8:リストランテ・ア・ルゴールのドタバタキッチン

*9:怪盗黒蜥蜴と最後の秘宝

*10:ルールオブルール

*11:『四人の令嬢と執事たち』。執事でした。

*12:今年の駒場祭はオンライン開催なのに恨めしいぐらいに快晴でした。

*13:どんなお酒とこの記事をペアリングすべきか迷ったそこのあなたは、ぜひ有機さんの記事へ。

有機さんの記事  初心者に向けたお酒の話 - AnotherVision Countdown Calendar 2020

*14:すでにバラエティ豊かなアドベントカレンダーになりすぎていて胃が痛いです。

*15:カルケミー

*16:告白しくはっく

*17:AnotherVisionにおける制作物や制作の過程については去年のアドベントカレンダーに寄稿されたRevolver制作指揮の2人の記事がかなり詳しいです。

ひんがしさんの記事 謎解きってなんだー! - AnotherVision Countdown Calendar 2019 

リセさんの記事  制作秘話?? - AnotherVision Countdown Calendar 2019 

*18:「面白い」の正体については、去年のアドベントカレンダーに寄稿された近見知新聞解読依頼・サイフアーカイブ制作指揮のろくさんの記事と、今年のアドベントカレンダーに寄稿されたパスティール制作指揮のタコワサビの記事が詳しいです。

ろくさんの記事 僕は偉い人なのです。 - AnotherVision Countdown Calendar 2019

タコワサビの記事 面白い謎解きって? - AnotherVision Countdown Calendar 2020 

*19:謎解きコンテンツを彩る各種技術職の話はいろんな人がしていますが、ここでは音楽の話と演技・キャストの話を一部紹介します。音楽は今年のいべの記事、演技・キャストについては去年のはにみやさんの記事を持ってきました。

いべの記事 理想の公演音楽を作りたいんじゃ - AnotherVision Countdown Calendar 2020

はにみやさんの記事 【かいてみた】演劇の人と謎解き公演 - AnotherVision Countdown Calendar 2019

*20:「他の制作メンバー」の立ち位置の議論に関連して、去年のすざりあさんの記事へのリンクを貼っておきます。

すざりあさんの記事 ここは俺に任せて先に行け! - AnotherVision Countdown Calendar 2019

*21:制作内での対立の様子は、なみ*さんの去年の記事に一部紹介されています。

なみ*さんの記事  Revolverのお話 - AnotherVision Countdown Calendar 2019

*22:そんな文化がなかったら、以下の記事は誕生していないでしょう。お口直しにどうぞ。後輩である沙穂の今年の記事と先輩であるたぐまぐさんの去年の記事を同列に扱うのはちょっと違う気もするけど、まあ細かいところは目を瞑っていただくとして……

今年の沙穂の記事  診断メーカーから始まるお話たち。 - AnotherVision Countdown Calendar 2020

去年のフスマさんの記事 GRAY - AnotherVision Countdown Calendar 2019

去年のたぐまぐさんの記事  おねえちゃんのはなし。 - AnotherVision Countdown Calendar 2019

*23:余談ですが、マーダーミステリーだとどうも中間管理職みたいな立ち回りをしてることが多いです。面倒なジレンマに悩まされがち。謎解きだと大謎を20%ぐらいの確率で仕留めに行く人です。